2020/11/8 千葉ロッテ・マリーンズ4年ぶりのCS決定

「見上げた。田村、田村。取ったー。試合終了。
千葉ロッテマリーンズ 勝ちました。
2016年以来4年ぶりのクライマックスシリーズ進出です
この1か月間、一度は地獄を見ました。
しかしあきらめませんでした。
這い上がってきました。
そして逆境を突破しました千葉ロッテマリーンズ。
4年ぶりのクライマックスシリーズです。
この踏ん張りこそが井口監督が求めていた千葉ロッテの新しいアイデンティティです」

2020/11/8 千葉ロッテ・マリーンズ×埼玉西武ライオンズ

正直、この放送が2002年から18年間かかわってきたロッテの球団映像の最後の実況となるとは思っていなかった。

2020年の千葉ロッテは、9/30と10/9には首位ソフトバンクとゲーム差なし1厘差で優勝争いをしていた。しかし9/21のマーティンのケガによる離脱やコロナによる離脱者などが影響し、10/10~11/4まで4勝16敗1分と大きく失速。11/4には追い上げてきた埼玉西武に抜かれついに3位に後退していた。

この年はコロナ特例で、クライマックスシリーズは1位と2位のファイナルステージのみ。3位ではクラマックスシリーズには行けなかった。その中で迎えた直接対決がこの試合。ちなみにこの試合を終えると残りは両チームとも1試合だけ。表のような状況だった。

両チームともCSをかけた争いだったため、放送では当然、両チームに視点を置いた放送を心掛けるが、この試合の1週間前くらいから私の心は入り乱れていた。

はたして均等にこの試合を実況できるだろうか。

この前年から薄々感づいてはいたが、ロッテの実況担当の試合が以前より減らされていた。
それでも自身はポジティブに考えてはいたが、この2020年シーズン初めに担当の分布を見て確信に変わっていた。

自分自身この年は、1試合1試合のロッテ戦の実況が戦いだった。僕は不器用な人間なので、自分の「実況」で評価してもらう以外にアピールの仕方がわからない(いわゆる日本社会特有の仕事の取り方をできる人もいる)。本数が減ってきているのはわかっても、それは他人がどうこうでなく、自分の実況が評価されなかっただけと思っている。だからこの年は特に、ロッテファンが評価してくれるような放送をしなければとより意識を強く持ち1試合1試合に臨んでいた。もちろん肩入れすることは僕の信条に反するので、対戦相手の情報もしっかり入れてというのは大前提だ。

実はこの試合は、雨で流れた試合がありその振替で新たに組まれた試合だった。雨で流れた試合が僕の担当だったが、振替日が発表になったときに、もしかすると終盤戦の大事な試合という理由で自分を担当につけてもらえないのではという危惧があった。

書いたように、僕はこの年、ロッテ担当の1試合1試合は本当に貴重と考えていたので、その1試合がなくなってしまうことはどうしても避けたかった。それまでは一度も言ったことはなかったが、この時だけは「この振替の試合は僕で大丈夫ですよね」と担当者にあえて念を押していた。

そしてめぐってきたのが、このロッテと西武にとって緊迫した状況下のゲーム。西武の公式映像も担当しているので、両チームのファンに均等により深くお伝えできる自信はある。いつもならまったく悩むことはないのだが、この年最後のロッテ戦実況、そして最後の自身のアピールチャンス。どういうトーンでいったらいいか、少し迷っていた。

この試合の前、西武は楽天2連戦に●△。ロッテは前日オリックスに○だった。西武は楽天に勝っていたら、CSは手中というところでつまずいた。そして前日の結果により西武優位からロッテ優位に状況が変わっていた。

もともとロッテは優勝争いをしていた。西武はロッテが急降下したことでCSの可能性が出てきた。ロッテはこの試合に勝てばCSが決まる。西武はみずから決めるチャンスをふいにした状況。西武は今日勝たないといけないが、勝っても翌日次第。ロッテとしてはCSだけは死守したい。

総合的な判断から、試合中はいつも通りにどちらの立場にも立ちつつ、最後9回は、リードしていても、されていても、ロッテファンの気持ちを感情移入して実況することに決めた。もしこれが西武優位な立場で迎えた試合だったら、試合終盤は両チームのことを考えなければいけず、少し感情移入の度合いが変わっていたと思う。正直、自分にとって、ロッテの立場に立っての放送に、より専念しやすい状況が生まれたのはほっとしていた。

最後の「アイデンティティ」で噛んでしまったところは、お恥ずかしい限りだが、優勝戦線からまさかの脱落、しかもクライマックスシリーズさえ逃してしまいそうな信じられない転落ぶりを見たこの1か月。選手とファンが苦しみからついに解放されたその瞬間を実況で表現したかった。

コロナ禍以降、新聞記者のSNSでロッテ情報が発信されることも増えたが、私が関わった2002年から15年近くは、ロッテの細かい情報は他球団に比べ圧倒的に少なかった。ならば、放送の中で少しでも多くロッテの情報をお伝えし、それを補完していきたいという気持ちでやってきた。これは他に担当するソフトバンクや西武の放送とはまた違う意識での取り組みでもあった。

2021年からロッテの公式映像で私の実況は流れていない。
それは「評価」だから仕方がない。
ただ結果的に最後の最後の放送で、これまでで一番、ロッテファンから反響のあった実況ができたのは、有終の美と言えるかもしれない。


以下はこの日の僕の実況に対するTweet

井口監督のコメントを8回終わりから意識して挟みつつ実況していた。もちろんCS決定の瞬間に言う「アイデンティティー」につなげるための言葉だ。それをちゃんと感じ取ってくれているファンもいて、そこは本当に感謝の一言だ。

2 comments to “2020/11/8 千葉ロッテ・マリーンズ4年ぶりのCS決定”
  1. ロッテファンの者です。
    加藤アナのファンの気持ちを代弁してくれるような熱い実況と
    公平性のある聞きやすい実況が大好きでした。
    この記事の試合と加藤アナの実況とても強く印象に残っています。
    またいつかロッテ主催試合での加藤アナの実況が聞ける日を
    待っています。

  2. 加藤アナの実況、ロッテ戦以外でも聞く機会はありますが、2020年を最後にロッテ主催ゲームから離れてしまったのが残念に思っている1人です。
    シビアな世界かと思いますが、復活を願っています。

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