本田圭佑氏の解説を巧みに引き出せたのはなぜか
インターネットテレビ局『ABEMA』のカタール・ワールド杯中継では、元日本代表の本田圭佑氏が日本戦の解説を務め、好評を博している。本田氏自身の理論と感情の入り混じった独特の解説を引き立てる立役者ともいうべき存在が、実況を務めるテレビ朝日・寺川俊平アナウンサーだ。下記リンクのNEWSポストセブンの記事では、ライターの岡野誠氏が、寺川アナの“解説・本田圭佑の引き出し方”を解析している。
岡野氏は寺川アナを「聞き上手」という視点から5つのポイントを挙げているが、同業者目線で言うと寺川アナのすごさは「聞き上手」というよりも、彼自身もサッカーを高いレベルでやっていたことに起因する「解説者が伝えたいことを完璧に理解できている」というところを挙げたい。
今回、寺川アナが評価されているのは、本田圭佑氏が発した一言を視聴者にわかるように(自分はある程度内容を理解していながら)もう一度説明を求めているところに尽きる。これを記事では「聞き上手」と言っているが、実は解説が言ったことをかみ砕いてもう一度わかりやすく言ってもらうテクニックや次の手をどう打つかのような質問自体は、どの実況アナウンサーも教えられていることで、それをやっている人は普通にいる。
しかし本田氏の場合はかなり独特の表現が多く、視聴者もすぐに理解が追いつかないケースがままあるため、もう一度細かく説明してもらうという部分が、今回よりクローズアップされたのだと考える。
例えば、記事に出ているものを拾うと「どうするか。これは森保(一)さん悩むぞ」「ラッキーですね、これ」「前に行けないというのが一番嫌なんで」など、本田氏の感想から言葉がスタートするため、詳しい人はそうだよなと一瞬で理解するが、そこまで詳しくない人はなぜそう思うのかがすぐにはわからない。だから視聴者への助け舟が必要となる。正直、これは実況アナウンサーにとっては当たり前の仕事であるが、ここまで解説にド直球でこられると、解説者の伝えたいことを瞬時に理解しているかどうかで、そのあとの解説者への振り方が変わり、話の流れ方も変わってくる。
寺川アナは、本田氏の考えていることを瞬時に理解できているからこそ、すぐに本田氏によりわかりやすく言ってもらえるような質問を投げかけることができている。競技理解の高さと本田氏とのコミュニケーションがすべてと言ってもいい。
記事では、このほか本田氏の質問に間髪入れずに寺川アナが答えている点も良さとして挙げているが、これに関してはそれが実況アナの仕事なので答えられて当然かなと思う。また「控え選手の名前を挙げるのは容易なことに思えるかもしれないが、何度も復習して頭に叩き込まないと淀みなくスラスラとは出てこない」ともあるが、特に世界最高峰の大会なので、いつも以上に控えも含め徹底した準備は怠らなかっただろうし、手元には当然見やすく書いた資料もあるので、スラスラと出るのはそこまで難しい話ではない。
それよりちょっとだけ寺川アナに対し、ショックだったのは、ドイツがリードを許したり、追いついたりしたときの、日本の勝ち抜け条件を本田氏に何度か聞かれたときの対応が、即座にできずやや曖昧なところもあった点だ。そここそ、本当はしっかりと答えなければいけない基本の部分だったと思う。